2009/10/16
おばさんは一人で店に来てた。
家具売り場をグルグル廻っていたら、突然「スイマセン~」と呼ばれた。
「これとこれ、下さい、配達していただけますか?」と控えめに聞いてきた。
「・・あのマンションは近いし、分かりますよ、204号室ですね」と確認をした。
翌日の11時配達に行くと、おばさんと息子親子の3人が待っていた。
テレビボードに白い丸いダイニングセットを息子さんと一緒に運び込む。
円形テーブルの直径が1mちょっとあるので、マンションの部屋の通路を横倒しにしてギリギリに何とか運べた。
失礼しようと挨拶をしたら、おばさんが「スイマセン~」と昨日と同じ調子で言ってきた。
「お店の黒い棚、玄関の所にある、あれは売ってもらえないのですか?」。
「えぇ~、什器で使っているんで・・・それに素人さんが自分で造ったものですよ」と俺は答えた。
「金具が素敵だし、棚の数もたくさんあってたくさん入れらるし・・・譲って欲しいんですけど」と哀願した。
黒いボードを組み合わせて、交差する部分には飾り金具を付けてあり、棚枠もランダムでスクランブルに配置されてあった。
数年前に出張買取で仕入れたのだが、見た目は良かったが少しぐらめく感じがしたのだ。
それは素人がホームセンターから各部材を買って見よう見まねで造ったので、しょうがないのだ。
だから商品としては難しいと思って店の什器として使っていたのが実情でもあった。
おばさんのマンションには家具らしい家具はまだ揃っていない、ついさっき部屋に入ったばかりの状態。
「この居間の壁に沿わせて置きたいの、どうかしら?」。
白いクロスは張り替えれたばかりで眩しく陽光を反射していたから、黒の棚はきっと映えるだろうと思えた。
白い壁に白い丸いダイニングセット、そこに黒い棚があったらコントラストがアクセントになる。
「ええ、多分似合うと思いますが・・・」と俺がゆっくりと答えた。
「そうでしょ?だから、どうしても欲しいのっ」。
「あれは重いですよ、問題はエレベーターに入るかどうかですね?エレベーターの奥行き?」と俺は不安を口にした。
すると、おばさんは裁縫用のメジャーを取り出して、「測りましょ?」と意気込んだ。
俺らはエレベーターを開けた状態にして、おばさんが身体半分を床とエレベーターに跨ぐ、そして俺は急いで計測した。
次に俺は店に電話をして什器の寸法を聞きだした。
どうやらエレベーターには入りそうだが、台車に乗せたままでは入口天井につっかえるかも知れない。
「・・なんとかなりそうですけど・・」と俺は又しても尻込みしながら言った。
売れるのが嫌な訳はないは無いが・・・
う~ん、配達が思いやられるんだ。