リサイクル親父の日記

第895話 お爺さんは身の上話をしだしたのだ・・・

2010/02/28

仙台市中心部の高層マンションションの最上階の3LDK。
居間を始め各室からの眺望が素晴らしいので、俺はカーテンを開けてうっとりしてしまう。
築数年だから、そしてお年寄りだけの生活だから傷みも汚れもない。

最近新築したばかりと言っても信じられるし、床はベージュで壁は真っ白なので明るいから室内も素晴らしいのだ。
電話をしてきた男性は不動産会社の営業マンだった。
どうやらお爺さんはこのマンションを手放す、そして、関西方面に引っ越すのだ。

営業マンは買手も決まったから、張り切って最後の手配に精を出している。
お爺さんの意向と買い手の希望を調整して、要る物と要らない物を割り出して、売る物を俺の店に連絡していた。
現場での見積は3人で話し合うのだが、仲介男性が口移し的にオウム返しの様にお爺さんに伝える。 

ところが今日の引取日にはお爺さん一人が居るだけだったから、始めは俺は戸惑った。
高齢でもあるから、先の見積の時の内容が一部忘れてたりもしていて俺は戸惑いが深まる。
仕切り直しをして、ゆっくり、優しく、噛み砕いて説明したらお爺さんも思い出したようなのだ。

作業は無事に予定品買取だできるようになり、俺は従業員二人に指示を出し開始する。
二人が作業している間に細かい物を箱に入れたり準備をしていると、お爺さんが話しかけてきた。
「ちょっと、これ、どういう意味か分かりますか?」と書類も持ってきた。

マンションに提出する退出届けだが、読めば誰でも理解できることだと思えたが、従前の様に説明してあげた。
他にも区役所に提出する届け出書類などがあるし、英文ドキュメントもたくさんある。
お爺さんは俺の説明が分かり易かったようで、俺を気に入ってくれた。

二人の搬出作業は続いている。
お爺さんは俺にたくさん話しかけてきたり、相談するようになってきた。
「僕ねぇ、生まれが日本だが、育ちはハワイなんだ、親父がハワイに移住してねぇ・・・」。

そうだったのか、と納得できた。
初対面の時とさっきまで感じていたちょっとした日本語の違和感の訳が。
言い回しや表現の仕方が微妙に違っていたから不思議な気がしていた。

少し質問をしたら、お爺さんは堰を切って話始める。
ハワイやロスで過ごした数十年間の生活、戦争でアメリカ人として日本と戦ったこと、奥さんも移住した人、
奥さんの出身地・仙台で余生を過ごそうとやってきた、1年前に奥さんが亡くなり寂しさが募る。

身寄りのいる関西にマンションを処分して引っ越す、などなど・・・・
お爺さんの話を聞きながら俺は思い出した。
中国残留孤児の実話とドラマ・・・・

耳では話を聞いているが、俺の感情は中国残留孤児の話を見た時の気持ちが沸々を湧きあがった。
悲しさや同情はしてはならないが、哀れさというか寂しさが感じられてどうしようもなかった。
人の一生は全く分からないものだと改めて思う・・・

別れ際にお爺さんに言われた一言が印象に残った。
「貴方もお元気でね、アリガトウ」。