リサイクル親父の日記

第907話 親父の形見の財布を使っています

2010/03/14

6~7年前からのお客さんで、数が月に1ち度くらいの感覚で来ている。
ほとんどが奥さんと二人ずれなのだが、最近は一人の場合もあったりしている。
イイ歳で最近定年退職したが、奥さんはまだ勤めているそうだ。

だから奥さんが休みの日は二人で来るが、そうでない時には一人ということだ。
ところが今日は平日なのだが奥さん以外の女性と二人で来たから俺は少し驚いた。  
軽い挨拶を交わして、彼と連れの女性は思い思いに店内を見て回っている。

女性は彼に似た雰囲気があるし、同時に奥さんにも似ていると思えた。
「娘さんですか?」と聞くと、「そうだよ」と返ってきた。
「家族みんなが同じ趣味でイイですね」と俺は素直な感想を口にした。

二人は交互に骨董コーナーを隅々まで見ている。
特に、娘さんは俺の店が初めてだから、珍しそうに品々を手に取りながら、彼に尋ねながら見るのだ。
興味を持った娘さんにお父さんが易しく教えるという光景は、実に羨ましい場面でもある。

我が家は親子で趣味が共通してはいないから、親子一緒にショッピングなんてことはない。
入学や卒業、或は、特別な慶事で家族全員で食事には行っていたが、買い物はね~、ましてや趣味の買い物なんて、あり得ない。
個々に好きな事をやっていて、それが親子での共有は無かったんだから、しょうがない。

「今日は買う物が無い、見つからない」と彼はボヤキながらリサイクル品コーナーへ移動してた。
しかし娘さんは一人で骨董コーナーから離れない、その真剣に物色する姿は、熱中していて夢中なのだ。
DNAは遺伝していて、そして、同類を正に生んでいる現実がそこにあるのだ。

待てよ、と我が家をもう一度振り返って考えた。
俺は絵画が何となく好きだった。
娘も絵画が好きだし、息子も絵は嫌いではないようだし、文系の傾向は共通しているかもしないなぁ~

・・・
「これでも買うか、又、雪降ると大変だからな」と彼はスコップをレジに持って来た。
現実に引き戻されて俺は、「もう、降らないんじゃない?」と言ったが、彼岸までは安心できない。

彼はズボンの後ろポケットから財布を取り出した。
何とも大型の財布で使いこんであり歴史を感じたのだ。
「ふぇ~、随分大きい財布ですね、何百万円も入るんじゃない?」。

「これね~、印伝だよ、親父の形見だ、丈夫で長持ちするよ」と彼は自慢した。
印伝とは鹿の皮で作った工芸品で結構な値段がするのだ。
俺は親父のことを思い出した。
残した物は無かったが、DNAは引き継いでいるのか、前向きで楽しく生きる方法を教えてくれたと。