リサイクル親父の日記

第930話 階段を優駿の如くに駆け上がり・・た・・い・・なんて

2010/04/07

10日前に単身赴任者の引越しの見積に行った。
集合住宅の3階の部屋だったから、もし決まったら、作業がしんどいなと思えた。
階段の3階は辿り着くまでに息が上がってしまう俺だ。

翌日、依頼者から電話があって決まってしまった。
俺も軟弱ものである、やりたい場合には大喜びするが、気乗りしないと喜べない。
一日一日とその日は迫るが、作業を考えると気が重かった。

当日の気温は夕方のためジャンパーが必要なくらい。
3階にパーッと駆け上がって行くつもりだったが、2階まで行ったらヨタヨタな感じになる。
俺の思うように腿が上がってくれないようで、一歩ずつ踏みしめた方がスムーズなのだ。

優駿の如く駆け上がるという夢想は早くも砕け散り、駄馬に成り下がるだけ。
夢と現実の差を認識して、これからの作業はゆっくり、じっくりやらないといけない。
疲れないように、負担が少ないように、転ばないように、怪我しないように、物を落とさないように・・・

依頼者は中古で買いそろえた物がほとんどだと言っていたが、正しく正鵠を得ている。
ガステーブル、湯沸かし器、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、テレビデオ、コタツ、カラーボックス数個、棚数個、・・・
卓上コンロ、DVD、照明、ふとん、寝袋、ジャー、ポット、などなど・・・・

狭い階段を一度に持てる量は決まっているから、何度も何度も上がり下りするのだ。
数回した時に俺は腿が上がらなくなってきたので、トラックの積み込んだ整理をして休憩して回復を待つ。
そしてヨイショ、ヨイショと自分に声をかけて上る。

腕に抱えた荷物で足元が見え難いので、首を曲げながら階段のステップを確認して注意して下りる。
この場合には下りの方が危険なのである。
転んで怪我しては元も子も無くなるからね、ゆっくり・・・じっくり・・・落ち着いて・・・

3階の部屋に向かう途中で、ドアーが開いているから、依頼者と奥さんの会話が聞こえた。
奥さんは不機嫌で何か怒っている感じがした。
でも、俺は寡黙に物を下ろしていた。

次の回、奥さんの声が明瞭に聞こえた。
「一体、これからどうするのよ、やっていけなわよ、仕事もないのに・・・」。
依頼者は黙っているしかない、俺も沈黙を続ける。

どうやら単身で出稼ぎに来てたがリストラされてしまった。
家に戻るしかないが仕事のあては無いのだ。
今後の生活が全く分からないから、奥さんは不安で精神的にまいっていた。

俺は作業を終えてトラックに乗った。
汗びっしょりで薄い頭髪から顔に滴り落ちて目に入った。
目が塩気で痛いが、それは涙か汗かは分からなかった。