2010/06/12
店の近くに住む人からの電話だった。
「家を解体するんだが、古い掛け軸が出てきたから・・・買取してくれ」。
彼の鼻息が荒くて、電話でも鼻息が分かるくらい興奮している。
「何本くらいありますか?どれくらい古いんですか?」と質問した。
「古いんだ、ずっと前から家にあったんだ、買取し・・・」古い、古いとそれだけを強調している。
「箱はありますか?」と更に質問した。
「あるよ、持って行くから・・査定してくれ」と電話が切られた。
2~30分後に夫婦で店に飛び込んできた、その姿で察しがついた。
「さっき、電話で・・ハァ、ハァ~」と鼻息が物凄く荒くなっていた。
生唾をゴックンと呑み込んで「これ、この掛け軸!」とカウンターに上げてきた。
後ろに付いていた妻も頬が紅潮してて、夫の陰から俺を凝視している。
「それでは見てみます」と俺は検品を始める。
3幅の掛け軸は、全部汚れが酷い、すすけているし、べっとりと汚れ付いている。
展開すると破損も何か所もあるし、とても商品としては価値が無い物だ。
中に何か絵柄が本当に古いものがあるかも知れないと期待いしたいが、最初の印象通り期待外れだった。
「残念ですけど、この状態では買取できません」と俺は綺麗に巻き直して彼に戻した。
彼はとっても残念だったようで、ガックリ肩を落とした。
「幾らでもイイから、買いとってくれない」と最後の交渉に出てきたが、それは金額の問題ではない。
「ちょっと無理ですよ、値段ではないし・・」と丁重に断るしかない。
「どうしたらイイんだ?何処かで買ってくれないかな?知らない?」と食い下がってきたが・・
「これでは何処でも無理かもしれないし・・・」と説明してあげたが・・
鼻息の荒さは溜息に変わっていた。
お宝が出てきたと随分と期待したようなのだが、それは無理ということだ。