2010/06/30
常連のお客さんがタイ焼きを持って来てくれた。
夕方だったから、俺は小腹もイイ具合に空いてきていた。
包みを受け取ると、直ぐに１匹取り出してムシャムシャと腹に送り込む。
その３０分前にアベックが来ていたが、店内を楽しそうに談笑しつつ相談している風だったのだ。
アベックは年齢が４０歳くらいだが、雰囲気では結婚は未だなようで恋人的だ。
常連さんが家具売り場から俺を呼んで、最近入ったばかりのローボードとムートンマットについて質問するのだ。
俺は常連とは気心が知れた仲だから、得意（？）の下手な親父ギャグ交じりに面白おかしく説明してたんだ。
いつの間にか俺らの近くにいたアベックは、親父ギャグ連発に一緒に笑ったのだ。
次に俺は彼らに話しかける「さっきからとても楽しそうで羨ましいねぇ、仲良くて」。
「この店、面白い！」と彼女が言うと、大人しそうな彼は「うん、うん」と頷いた。
「買う物は見つかりましたか？配達もできますよ」と俺はセールストークに及んだ。
「来月結婚して一緒に暮らすんですが、部屋が未だ空かないの・・・だから下見に色んな店を回っているんです」と彼女はしっかり者だ。
俺は常連さんにお願いした。
「あの二人は結婚するそうです、さっきいただいたタイ焼きをお祝いにプレゼントしたいんですが・・」。
「貴方にあげたんだから、どうぞ好きにしたらいいわよ」常連さんは気持ち良く応じた。
「買って欲しくてあげるんじゃないけど、結婚祝いにタイ焼きをどうぞ・・」と彼らに俺は差し出した。
「エエッ！？どうしてですか？」彼女は素っ頓狂に驚いて感激よりも茫然とした。
彼は意味不明の摩訶不思議な顔になった。
常連さんからいただいた経緯を説明すると、二人は納得したのだ。
・・・
それで俺ら４人はレジカウンターで冷えた麦茶で談笑に花が咲いたりしてさ・・
２０年前に漁船の仕事でシアトルに出張してた。
レンタカーで１人夕食を摂りにチャイニーズレストランに行った。
仕事がひと段落した後で、俺はやっとホッとした日でもあった。
アメリカ人の船員や工員と連日やり取りしてたから、気苦労が山の様に奪っていた。
それが今日、無事にクリアできる確信が生まれていた。
夕暮れの赤い日差しのレストランのテーブルに着くと、年配で恰幅のイイ白人のウエーターがメニューを持って来た。
少し楽天的な俺は、その日が俺の誕生日だと思いだした。
「・・ツディ、マイ・バースディ・・サーティＸＸＸ・・」と単語を口にした。
「リアリィ？」と語尾を上げて彼は喜んでくれた。
そして、次に彼が運んできたのを見た俺は驚いてしまった。
照明が少し暗めに落とされた中、ゆらゆらと蝋燭の点った小さいケーキを俺のテーブルに。
更に、彼が店中に響く声で話すと、店内にいたお客さんたちが一斉に拍手とお祝いを言ってくれたのだ。
俺は感激したよ～～ジーンと胸が熱くなってね。
一生の思い出として忘れることはない。
それを少しタイ焼きでおすそ分けしたんだ。