リサイクル親父の日記

第13話 綿密なメモはイイのだが、お爺さん、物は最悪ですよ

2010/07/01

仙台駅から南下する次が長町駅である。
昔JRの貨物車両基地などが有ったが、数年前から綺麗に整地され分譲されている。
マンションやスーパーも建ってきているが、これからが本格的に街らしくなるんだと思われる、アスト長町って呼ぶ。

そのアスト長町だが一部住宅地は10年前くらいから新興住宅街になっている。
お爺さんは皺枯れ声で言っている。
引越すから要らない物がたくさんあるから買取の見積に来い、と威張った感じで言ってる。

俺は尊大な言い方をする人は好まないし、できるだけ係わらないように心掛けている。
そんな人は些細なことで腹を立てたり、怒り狂ったり、イチャモンを付けたりと手に負えないことがある。
君子危うきに近寄らずって諺は実に正解だと常々思っている。

だが、しかしってやつで、アスト長町だったら家は新しいから物も良品ではないか、とスケベ根性が湧いた。
お爺さんの家は思った通り未だ新しさがバリバリ残っていた。
角地には無駄なく駐車場、倉庫、門扉、ガーデニングなどに細密に並べられている。

家に入るとリビングに通されて座らされた。
「老人ホームに入ることにした・・・この家も処分するから・・家財は相当要らなくなるから・・・
息子はアパート暮らしだが・・関係ないよ・・・不動産屋に相談したら・・・リサイクルに売ればって・・」。

俺は黙して聞いていたが、話はエンドレスで続いて行くようだったから遮った。
すると、本題になるのだが、B4用紙に何やらコチャコチャト記入したものを渡してきた。
小さな字であるし、部屋の名称も書いてあるが、当人じゃないと到底理解できるものではない。

「台所の・・えぇ~と・・米びつ・・・それと・・レンジだな・・・リビングの・・コピーに・・・
妻の部屋は・・・あのタンスと・・三面鏡か・・・次は2階だ・・・釜・・電気釜2つ・・・」。
こんな具合で家の中の各所を一巡するが・・・物はどれもがお爺さん状態(?)なのだった。

確かに10年前くらいの物もあるが、それらは出すことはなくて、どれもが古い物ばかりだった。
「まぁ、こんなところだが、幾らで買ってくれる?」と最後の言葉が耳を疑った。
「ハァ~?どれもこれも買取できませんから・・・」と俺は伝えた。

現役時代には経理、或は、設計関係の仕事でもしていたかも知れない。
きめ細かさとメモ癖が抜けないようだ。
何でもかんでも書くからポイントがブレてしまい、元のもくあみだったりする。

「ワシは大事に使ってたし売り物になる筈だ、ウン、幾らだ?」何処までも横柄極まりない。
新築以前からの物、20~30年前の物と思える物ばかりであったから俺はカチンときた。
「今聞いた物は全部古過ぎて買取なんてできませんよ、失礼します」言い残して車に乗った。

エンジンをかけて発進しようとギアを入れた時、玄関口でお爺さんが手を振っている。
よく見ると手招きで俺を呼んでいるのだ。
助手席側のウインドウを下げると、「さっきのメモを返せ」って目を吊り上げていた。