リサイクル親父の日記

第56話 刀が可哀そうで、戻って来たよ

2010/08/13

日本刀、真剣は銃刀法という法律で所持するのに規制がある。
俗に言う「許可証」が付いてないと、武器と看做されて不法所持で逮捕される。
「許可証」があれば美術工芸品として、鑑賞品として問題は無い。

俺は特に刀に興味は無かったのだが、鍔などの骨董品を並べていたら、「刀はないか?」と聞かれた。
その後、骨董のセリに出向いて、安価な物が出れば仕入れたりしてみた。
低級品であってもニーズがあるという実感が持てたので、それ以来、ちょこちょこと取扱している。

セリでも値踏み的に観察することで、多少は価値基準を理解できるようにはなった。
それなりに愛好者も来るようになったが、マニア程厳しくなかな販売はできない。
イイものであれば価格も高額になるし、交渉が実に難しい。

でも刀を扱ったことで、稀にある一般の人からの買取依頼にも対応はできるようになった。
刀の綺麗さやデキの良さ、金具の加工技術の高さを知るうえでは最良の方法だったかもしれない。
現状は刀では商売としては成り立ってはいない、単なる品揃えの一つである。

今日来たおじさんは初めて来た筈だ。
店に入るとキョロキョロ店内を見渡してから、骨董コーナーへ歩み寄って来た。
物を見る見方や仕草で骨董好きかどうかは分かるものである。

興味あるなし、憧れ、熟知しているかどうか、などが判定できたりするのは、俺の経験だろうと思う。
ド素人ではなくて、或は骨董屋か同業者かと感じた。
暫くしてから、「刀を見せて欲しい」と言ってきたから、ガラスケースから取り出して渡した。

「お~勿体ないよ、錆が少し出かかっているじゃないの、可哀そうだよ」と嘆いた。
「手入れしてるのかい?油やっている?」と矢継ぎ早に聞いてきた。
「・・いや~道具もないし・・」と罪悪感を感じながら答える。

そしておじさんは店を出て行ったんだが・・・
30分して手に小さな木箱を提げて戻って来たんだ。
「油、塗ってあげるから・・・刀が可哀そうで仕方がないし・・・」本当に憐れんでいた。

俺は商売であっても、刀の手入れができないことを恥じた。
「少し多めに塗っておくからさ・・どうせ手入れしないだろうから・・」。
「すみません、助かりました、ありがとうございました」と低頭するだけだった。

適当に手入れをするのは良くないと思っていた。
しかし長期間売れないと、錆は少しずつ発生するのだった。
これからの教訓となった。