リサイクル親父の日記

第97話 争奪戦なんて、記憶にないくらい昔のことだよ

2010/09/26

出張買取した物を店に値段を付けて陳列する前にオファーがあるなんて、滅多には無かった。
リサイクルショップ開業当初は、トラックに乗っている状態で、店に来たお客さんからオファーはよく受けた。
当時はリサイクルショップの数も少なく、俺の店にはお客さんが集まっていたからだろう。

トラックから下ろしていると、値段を聞かれたし、掃除前だし安い値段を言うと、よく売れもした。
年々客数も減ったりしてそんなことが無くなっているし、値段を言っても反応が悪くなっていた。
時には、売約済みの札を貼ってあるにも拘らず、それが欲しいと言われることはあるが、こちらは常識外、問題外である。

過日買取した着物と帯などは、芸者さんで高齢の割には上背のある人だったらしく、160cmくらいの人にも合うようだった。
店のバックヤードは狭いから、その占めるスペースが膨大で悲鳴を上げている。
できるだけ早く売りさばきたくて、安い値段を付けて着物コーナーに陳列した。

初めての中年女性が偶然立ち寄って長時間かけて試着して、そして20点以上買うのだった。
着物コーナーが空いたので直ぐに追加した。
その後、別の女性が同様に5~6点を買ってくれた。

翌日も追加陳列すると、第三の女性が又しても10点以上を買ってくれた。
その売れ行きには理由がある、それは品物が良品でもあったし、芸者さんだけあって柄が粋な物が多いのだ。
新調着物の値段は高額だから、リサイクルで柄や状態が良ければこんな買い得は無いのだ。

三者三様に、「もうありませんか?今度いつ入りますか?又、来ますから」と言ってる。
「まだまだありますが、検品が間に合いませんので・・・でも、明日も出しますよ・・・」と答えると、彼女たちは目を輝かすのだ。
三人のニーズは同一である、イイ物が安いから購買欲を刺激するのだ。

次の日は最初に着物と帯を数十点検品して値段を付けてレジカウンターに保管した。
「出しましたか?」と昼前に1人が期待を込めた声で聞いてきた。
俺はそれを示した。

彼女は夢中になって試着を繰り返す、1時間以上は楽に過ぎてしまっていた。
10点弱を選んで、2~3点を迷っているようだったが、自分の方に寄せて寸法を確認したりしている。
その時だった、別の彼女がルンルンと、小太りだが確かにスキップしてやって来たのだ。

先の彼女が着物を積んでいるのを見た瞬間に顔色が変わったのを俺は見逃さなかった。
選んだ着物を凝視した。
「それとそれ、わたし欲しいわ、譲って下さらない」と声を発した。

すると迷っていた筈の先の彼女は、「わたしがいただくんですのよ」と青筋立てて答えた。
俺は、「まだ、こちらにたくささん有りますから、どうぞ」と後の彼女を誘導した。
「あれが欲しくって来たのよ」と少しすねて言うから俺も答えようが無くなってしまった。

気を取り直して残りから選んでもらったが、その頃は気分ももち直していた。
それで5~6点を買ってから、「もう無いのかしら?次は・・・」と催促する。
迷っている俺にジレたらしく、「電話しますから」と帰って行った。

あぁ、第三の彼女には少なくなってしまって、失望を与えないだろうか・・・