リサイクル親父の日記

第200話 爺さん、ブタを見て動けず・・仙台リサイクルショップ親父も慈しむ

2011/02/13

中国では一般的な置き物のデザインの一つに豚がある。
古くから豚は親しまれているし、日本の干支ではイノシシだが中国では豚に該当する。
満面の笑みをした満丸い顔の豚の置き物は、ピンクは勿論、黄金に黄色といった彩色がなされている。

工芸品や土産品として出回っているが、紙粘土や焼き物が多く、木製は珍しいかも知れない。
その珍しさが俺の気を引いたから、先日の骨董オークションで手に入れた。
新品で20cm角サイズ、木彫りのくり抜き造り、茶色でピカピカ光沢がある。

陳列すると表情が実に可愛らしいのである、見れば見るほど可愛くて、久々に売りたくないと思ったほどだ。
見ているだけで俺も気持ち良くて心が和んでくる。
何度見ても、上下左右と角度を変えてみても物凄く愛くるしいのだ。

色々様々多種多様な品々を仕入れているが、こんなに気持ちが動く物は滅多にない。
10数年来で1~2回あったかどうか。
気入った物、上手の物、欲しいなぁ、飾ってみたいなと思う物・・・そのレベルの物は日常茶飯事である。

値段の多寡ではないのだ、琴線に触れるという感覚は大きくて、感動すら覚えるものである。
売りたくない、いつまでも俺の側に置いておきたい欲望がメラメラ燃える。
でも欲望を消す、持たないという信念でリサイクルショップを始めている。

俺が欲しいと思う物は、お客さんの中にもきっと欲しい人がいるに決まっているだろう。
店の什器でも代替えがあれば、そして、お客さんに求められると売った俺である。
その信念を揺るがすほど可愛らしい笑顔の豚の置物だった。

70代の不精髭の爺さんは時々来店するが、サービスの品など数百円くらいの物しか買わない。
暇つぶしも有ってか毎回長時間かけて見回るが、そんな楽しみ方もリサイクルショップにあるらしく、何人もの同様のお客さ

んを知っている。
今日も100円の品を買った・・

どうしたことかレジの脇から動かなくなったのだ。
爺さんの視線はレジの隣のテーブル上の豚の貯金箱に吸いついている。
数分見つめていたと思ったら、次は手に取って側面や下部を舐めまわす如く見ている。

10分以上は過ぎただろうか、話しかけてきた。
「これよ、何ぼ値引いてくれる!」
これまで値段もさることながら、話をすることなど全く無く、唯買って金を渡してくるだけだったのが・・

俺は豚よりも爺さんが話しているのにビックリしてしまう。
値引きできないと言うと、長考してる、同じ仕草を何十回も繰り返してから決意する。
かくして、俺の密かな喜びは数時間で去ってしまったのだ。