2011/03/03
「僕、インセイで今度ドイツに留学するん・・・・」
俺はインセイという聞き慣れない言葉が気になったから問う。
「インセイって大学院ってことですか?ドイツに留学するんですか?優秀ですね」
買取依頼の電話の時には落ち着いた喋り方であった。
的確に的を得た説明と落ち着いたアナウンサー風の話し方は、少なくても30代に思えた。
しかしずっと若い彼に「東北大学でしょ?学部は、専攻は何ですか?」俺は興味が出た。
「リガクです」爽やかに応えてくる。
「リガクって理学、理工学のこと?ドイツだし」これ又、分からない言葉である。
「理科の理です、それで理学。みなさんの税金を使わせてもらって、申し訳ないです」
謙虚な物言いと真摯な態度に俺は清々しい驚きを感じる。
勿論ハンサムである、今風に言えば「イケメン」で、しかも頭もイイ。
生まれも育ちもイイ、言動もイイときたら、ケチのつけようも無い好青年。
「税金を使ってもイイですから、どうかイイ研究をしてください」
俺は励ましの言葉を言いつつ、彼の将来に期待したくなる。
「全く関係ないけど、サッカーも観戦したら・・」
「いいですね、でも時間がとれるかどうか・・研究が大事ですしね」
留学先での時間繰りを思い描いて、非現実的な俺の提案に真面目に答えている。
「ここにも月に半分も寝てないですよ、大学の研究室で泊るのが多かったから」
「それにテレビも去年買ったんですが、少ししか見てないんで、よかったら買取してもらえませんか?」
部屋に入った時に一番買取したかった「レグザ」は、買取対象ではなかったのだ。
バリバリだし、例えば、普通は引越し先で使うのが普通だ。
「ドイツへの餞別と研究への期待を込めて、頑張って高く買いましょう」
宣言して、俺が査定を伝えたら、彼は満足したかどうかは別にしても、十分納得してくれた。
運び出し作業も積極的に手伝ったのは、言うまでも無い。
こんなに真面目に研究する人だったら、税金を無駄にはしないだろうと思える。
それ以上に、血税に感謝の気持ちを持っているという自覚がある。
見聞する無駄遣いに辟易している俺は、少し救われた心境になるよ。