リサイクル親父の日記

第233話 実の娘の家でも気は遣うしね

2011/04/13

夕方におばさんが1人で店に入って来た。
あっちこっち見て回っていたが、レジに近づいて言う。
「ここは被害なかったのかい?ウチなんて、みんな流されちまってさ・・」

「奥さんは何処だったんですか?この近くですか、浜の方?」、俺は被災地の海岸方面を思い出しながら訊ねた。 
「新地よ、福島の・・6号線の近くで、家も何もかも全部流されてしまって・・・
今、娘の家に来てるの、お父さんは避難所に居るけど、わたしだけ娘の家に・・・」

元気に話しているが、目は真剣で思いつめているのか、諦めがあるのか、達観した感じが漂っている。
「・・そうですか、新地ですか・・」、俺は一度配達に行ったことがある小さな町を思い出した。
「でもさ~1日や2日だったら娘の所でも良いけどね、10日も過ぎると、やっぱりねぇ・・・」

「どうしてですか、娘さんだもの気兼ねしなくてもイイんじゃいですか?」と、ちょっと浮かんだ疑問を問う。
「娘にも連れ相っているでしょう、だからどうしても気は遣うしね、遠慮もあるし・・・
やっぱり自分の家が最高だよね、歳も歳だし建てるって訳にもいかないけど・・・」

「・・・」俺は無言で頷く、俺もそう考えるだろうと思った。
兄弟は他人の始まりっていう、彼女には、娘婿は赤の他人である。
彼女が娘夫婦を面倒みる時には感じないだろうが、立場が逆だと肩身の狭さを実感するようだ。

今までは自分たちが主体であった関係が、現在はひっくり返ったのだ。
精神的な負担は目には見ないけれど、慙愧に堪えないものがあるようでもある。
彼女の気持ちが俺には凄く分かる。

人生このかた、小さい時からリーダー的でトップばかりやってきている。
施しを受けることがなくて、施しをする側で生きてきたから、俺は例えオゴリでも気分が落ち着かない。
謝意を受ける気分は良いが、謝意を表す時にはとても恥ずかしいと思えるのだ。

「このネックレスはクジラですよね」と鮎川のクジラ工芸品を取って見ていた。
「そうですよ、鮎川も何もなくなってしまったらしいです、もう作れないかも・・」
「同じ被災者だけど、買います、少しは役立つかしら?」

そして続けた。
「せめて、せめてネックレスでもして気分転換しなくちゃ」
・・・  ・・  ・