リサイクル親父の日記

第252話 断っても何度も電話が・・・

2011/05/01

買取依頼の電話があっても簡単には出張はできない。
過去に痛い失敗や苦い経験が山ほどあるから、どうしても慎重になる。
単なる「来て」とか「見に来いよ」では、出張の手間暇代にもならないし、買取できない物だったりするのだ。

「誰かに使ってもらえればイイのよ、タダでもイイし」とボランティア精神旺盛な申し出もあるが、店は商売なのだ。
俺は店で売買して稼いで生活をしているし、従業員も雇っているのだ。
真剣に商売になるかどうかを見定めて、それで動くのが当然なのだ。

「大きなこけし、津軽塗りの座卓・・2~30年になるけど・・引越しで、持って行けなくて・・・」
お婆さんが訴えているが、これでは出張できるほどの内容ではないから断った。
翌日再度電話があった、「何処でも断るの・・ねぇ、お願いしたいの・・・」と哀願調だ。

更に、その夕方に電話があって「やっぱり何処もダメだし、何とか来てちょうだいな」
「えぇ、他に何かないんでしょう?もう少し何かあれば考えなくもないんですが・・」と俺は誘導する。
「油絵もあるわよ、5~6点、場所はXXXのコンビニの隣でXXXX医院の看板が・・・」と病院の名を言った。

お医者さんの引っ越しであれば、ひょっとして良品の可能性があるかも知れない。
「行きますが、お急ぎでしたよね・・明日午前中で・・・」そんな決め方が時々ある。
道路面側に2階建ての医院、奥に連なって自宅があるが、前面に単管の工事用足場が地面から上面まで取り付けられている。

お婆さんの夫が開業医で、20年前に亡くなった後は娘さんが継いでいた。
「2回目の地震で・・40年経った建物で使えなくなって、それで建て替えを急に決めたの・・・」
自宅の奥まった和室には引越し準備の荷物が山が連なるように出ている。

こけしはキズもあり記念の品々、座卓も漆が数カ所剥がれている。
油絵はどれもが埃だらけである。
しかし、風景画と婦人像はしっかりしたものである。

「碁石もあるけど・・これもどうですか・・」とお婆さんは選び出しては俺に見せてくる。
医院の中では数名の看護師さんたちが慌ただしく片付け中だ。
2日後には空けて仮の宿に引越すのだが、あまりにも急なことで皆が大慌てという状況。

1年後にはここに真新しい医院兼用の住宅ができるのだろう。
俺は最後尾の部屋から長い通路と医院内診察室や待合室を抜けて、更に螺旋階段を下りて運ぶ。
そこからコンビニに止めて車に何度も往復した。

借りた大きい風呂敷から取り出して車に積み込み、風呂敷をお婆さんに返して終了したんだ。
「・・あぁ~やっぱり座卓はダメですか・・持って行くのが大変だわ~~」
要る物を選ぶだけでも忙しい筈なのだ、リサイクルショップを呼んでる暇は無さそうに思えた。