リサイクル親父の日記

第256話 車が流されてさ、金、買取しないの?

2011/05/06

設備関係の自営業者の中年男性だった。
パッと俺の目の前に来ると聞いてきた。
「今、金はg、何ぼで買取してくるのかい?」

ちょっとした必死さがある感じがしてたし、急に藪から棒に唐突でもある。
「金ですか?どんな金ですか?それなりの相場で買いますよ、どれくらい持ってるんですか?」
??と怪訝な表情をした後に、「全部で1Kくらいあるよ、四角い板とかの・・・」

今度は俺が驚いて素っ頓狂に言う、「1K!?何百万になりますよ、どうしてそんなに持ってるんですか?」
「昔からちょこちょこ買ってたんだよ、でもさ、津波で乗用車が流されて・・その資金に売ろうかと・・」
「分かりました、今、持っているんですか?買取資金が無いですけど・・」

俺は買取できるほど現金を持ち合わせていないから諦めるしかないと思った。
「家にある、相場を聞いてからと思って・・家は南の方・・2時間かかるから今日は無理だけど・・・」
少しほっとできた俺は、「前日に電話下さい、現金を用意して待ってますから、その日の相場で買いますから」

「分かった、ちょっと買いたい物があるんで見せてもらうよ」と言って彼は売場を歩き始める。
五徳と火箸、灰ならしを持って来た。
「火鉢は要らないの?」俺は本体が無いことを聞いた。

「火鉢はあるんだ、今度の地震で電気が止まって大変だったし、発電機では助かったよ」
仕事柄、溶接機を持っていて、停電時に大活躍したそうだ。
火鉢もあったので炭を起こして役に立ったけど、五徳などが揃ってなくて、不便もあったそうだ。

それで今後の対策として、火鉢もちゃんと使えるように準備すると考えたそうだ。
「もともと古いのは嫌いじゃないし・・この店にも何回か来てるよ」
俺の記憶力は相当弱っているから、彼を全く覚えていない。

でも、もし彼が本当に金を持って来ると電話があった場合・・・
俺のリサイクル屋としての最も高額取引になるんだが・・・
どこから買取資金を調達したらいいんだ?

・・・
でも、あの日から忘れるくらい過ぎてしまった。
そんなに上手い話が三流リサイクルショップには来ないのが現実でしょう。