2011/06/06
「骨董品って・・茶釜がございまして・・・新品ですわ・・・」
電話のお婆さんは丁寧な言葉遣いで説明しているが要領を得ない。
「茶釜ですね、他に何かありますか?」と俺は聞く。
「・・ぜんぜん使わなかったの・・・南部鉄器の名のある方のでして・・・」
自分のペースでゆっくりと上品に説明しているが、俺はイライラが募る。
年代の差で、或は、生きてきた社会の差で人は話すスペースも大違いだと思う。
1品を想像できるまでに5~6回も質問しないとならない。
だから質問を変えて、「ご住所はどちらですか?」と判断基準を別にする。
「わたしの?長町ですわ、・・そのアパートの106号室なの・・・わたしが売ったアパートに・・・」
店からは近いから出向むと、1Kの部屋に木彫り家具が5点ギッシリ置いてある。
片側タンスの前に隙間無くソファーが、反対側もチェストにローボードだ。
だから中央部は1mの空間しか残らない。
センターテーブルを置いてるし、窓際に事務机があるから、俺は横歩きして部屋に入った。
彼女は上品に話し出した。
「・・わたし、岩手の方で割烹をやってましたの、その時にね南部鉄器の茶釜を・・・10点ほど・・・
このアパートも最近売りましたの、それでこの部屋に借りて住んでますの・・・東京にもアパート持って・・
着物もね、仕事柄たくさんあったのよ・・それ売ってもらってて・・売れると振り込みしていただいて・・」
表札に会社名が併記されていたのを思い出して、彼女の話と総合して考えた。
事業が上手くいってた時は羽振りが相当良かった。
5点の家具は木彫り家具は高額品だと分かるから、過去の栄光を物語っている。
現在は金融機関に不動産を全部処分されて、往時手に入れた品々を細々と売っているようだ。
俺は商談を始めたくてウズウズしてきたから、「ところで、如何ほどで買われました?」と促す。
「釜は20万円しましたわ、一度も使ってませんわ、飾ってただけですの・・2点残ってますからいかがかしら?・・」
ズシリと重厚な造りで姿がイイのだが、俺には値段的に買えないと察した。
「他に何か売りたい物などありませんでしょうか?」
「・・そうねぇ・・これはアメリカで買った物だけど・・・置物かしら・・高かったのよ・・・いかが?」
どうも上品な会話に俺はペースを乱される。
「これは韓国製のお土産品ですね」と真鍮製動物の底のシールを確かめてから言った。
彼女はガックリと肩を落とす「そ、そんなことって!!!信じられないわ~~」と落胆を全身で表わす。
「茶釜は難しいですが、こちらは売れそうですので買わせていただきます」
頭を振りながら「早く、早くに持って行って下さいませ・・幾らでも構いませんから・・」という結果です。