リサイクル親父の日記

第300話 直ったがッ!? 元から故障なんて・・・

2011/06/22

「さっき買った洗濯機! なんだこれは? 水が出ねぇじゃねえか!」
受話器を取ると怒り狂っている男の声がする。
「直ぐ来て、直せっよ、洗濯できねんだ、直ぐ来い!」

今朝確かに洗濯機を買った夫婦がいる。
2日前に来て下調べしていた、でもその時は買わなかった。
「新品の方が安いかもな・・」と値札を見て俺に言っていた。

「そんなことは無いと思いますよ、近くに電気量販店もあるし、色々調べてからでも遅くないでしょ」
俺はリサイクルショップとしてはプロだから、新品より高い値段を付けることはあり得ない。
男の傲慢な物言いにちょっと腹も立ったし、疑われるのしゃくに障る。

その結果、今朝来たのだ。
「新品は4万円するからよ、ずっと安いからな、安いのにしろよ!」
男は奥さんに注意を促している。

俺は怒りの原因を知りたいし、年式も新しいし、故障は考えられない。
「あの~どの様に問題がありますか? 水が出ないって、蛇口は・・」
「ホースまで水は来るが、出ないんだ! いいから早く来い、直せ!」

電話ではらちが明かないと思える、それで住所を聞く。
「・・荒浜っさ来る方の途中のY字を左に曲がって・・そこを右さ・・」
住所では無くて道順をベラベラと怒声で言ってる。

それを制して住所を聞き出して向かう。
そこは荒涼と化して震災・津波の傷跡が生々しく残っていた。
男の家は残っているが1階は壁が打ち抜かれ、柱が丸見え状態。

土台しか残ってない家跡が圧倒的に多い、実に悲惨な状況である。
俺を迎えた奥さんは洗濯置き場で二人になると言う。
「あの~使い方が・・もしかして悪いかも知れません、ただ、あの人が直ぐに大騒ぎするんで・・」

俺は合点する。
「今までは2槽式洗濯機ですか? すると、全自動は初めてですね?」
全てをセットアップしてスタートボタンを押すと、当然なのだが何も問題は無かった。

「すいませんでした、分からなくて・・わざわざ来てもらって、本当に・・」
庭に出ると、男は道路でガレキ撤去作業員に口角泡を吹いて怒鳴っている。
俺は声を大にして「終わりましたよ、故障してませんでしたよ」叫ぶ。

三角帽子の下の顔が振り向いて耳を横にする。
「直ったが!?」
「故障じゃないよ」それだけ言って俺は車に乗った。

時々、全自動洗濯機の使い方の分からない人に出会う。
そんな時には、店で十分に説明するけれど、それを聞かない人もいるのだ。