2011/07/08
数日前の電話で買取について問い合わせたおじさんがいる。
「骨董ってんではないが、お茶道具っての・・買取できるか?」
その後に「おたくの店の場所、何処だい?」と聞いていた。
店に入って来た人も目的が違う場合がある。
買いに来るお客さんが圧倒的多数を占めるが、中には売りに持ち込む人もいるし、暇つぶしの人もいる。
或は、価格調査をしてるようなリサーチ的な人もいる。
午前中に年配の夫婦がやって来て、店内をキョロキョロしながら歩き回っている。
やがて骨董品コナー付近で二人は佇んで内緒話でもしている風だ。
品定めでもしているのかと思ったが、時々聞こえる話は内容が違うのだ。
「おめえ・・聞いてみろ・・・イイから・・」とおじさんの声。
「・・えぇ・・・でも・・あんたが聞いて・・」と控えめなおばさんの声。
こんな時には俺が声をかけるのがベストである「何か、何かありますか?売りたい物でも・・」
二人は安堵した表情で数歩寄って来て「実はさ、茶道具あるんだ、釜とか茶碗とか・・」おじさんは切り出した。
おばさんも「叔母がね、お茶の先生だったんですよ・・その道具なの・・200点ぐらいあるわ」と流暢になった。
その日の午後にその家に出張することにした。
玄関脇の縁側には茶釜や風炉が、和室には部屋半分ほど段ボール箱と積み上げられた茶道具箱類が並んでいる。
「叔母が痴呆で入院してたんですが、去年秋なくなって・・ずっと独り身で・・退職してお茶の先生を・・・
ゆっくり片付けてたんですけど・・・震災でマンションが・・それで業者に頼んで・・これだけは持って来て・・」
和室に座り込んで、俺は1点毎に箱を開けて中身を確認する。
段ボールから取り出して、紐を解いて中身を確認して、又、入れ戻して蓋をして、紐を縛り、段ボールに入れる。
1個、2個・・・・10個、20個と進むと、じっとり汗が滲んでくる。
10cm角くらい箱には茶入れナツメや香合、10~20cm角には茶碗や水指、30cm角くらいは壺などとなる。
開けて閉まってを延々とやって100個になった頃、汗は箱に滴り濡らす。
脇で見ているおばさんも疲れているのか、「まだ開けてみますか?」と救いの言葉をかけてきた。
俺は粗雑な扱いはできないが、一山分を検品したので全容を把握できていた。
「そうですね・・状態は全て良好ですね、大切にされてたんでしょうね・・そちらも同様に良好だと思います」
おばさんは何度も首を上下させて、「叔母は本当に丁寧に扱ったんだと思いますよ」懐かしい思いで言う。
俺は提案する。
「こっちの一山は検品できました、あと二山分はこれに準じて判断したいと思います」
「それで結構ですわ、わたしには分からないし・・リサイクル屋さんにお任せしますから・・」
居間で検品が終わるのを待っていたおじさんが現れる。
「どうだい、終わったかい? ん? それでイイよ」とおばさんの考えに同調してくれる。
「ありがとうございます・・それではX万円での買い取りとさせていただきます」俺は査定を伝える。
翌朝、俺はトラックを横付けする。
道路と家は10mの距離だが、何十回どころじゃない程、何百回にも思えるほど運ぶ。
茶道具は洗練されていて実にお洒落なものが多いと感心する、俺もどうも歳かなぁ~?