2011/07/12
青年は初めて店に来た。
お客さんの顔を全部覚えている訳は無いけど、雰囲気とかで自然に分かる。
時間をかけて店内を探索したと思うと、外の自転車売り場に行ったりしている。
ツカツカとレジに寄って来て二三訊ねる。
質問と疑問に答えたが、スーッと引いて家と思ったら、いつの間にか帰ってしまっていた。
翌日やはり夕方店に来る。
「自転車、ください!」と威勢のイイ声だ。
古物台帳に記載するから住所を書いてもらうと、相当遠い県外なのだ。
「随分遠い所から来てるんですね」と俺が言う。
「えぇ・・派遣で来てるんです・・自転車ないと不便で・・」
更に、次の日も来たのだが、様子が変だった。
ツカツカとレジに寄って来てモジモジとして、ボソボソと話し出す。
「あの~昨日の自転車、返したいんですが・・ダメですか?・・ちょっと困ったことに・・
財布を失くしてしまい、金無くて・・飯も食えなくて・・お願いできないすか?」
派遣の仕事で仙台の寮に入ったが、財布を失くして一銭も無いという。
親に送金してもらうが、今現在は無い、だから自転車を買い戻してくれという。
「3日後に必ず、必ず又買いに来ますから・・」
こんな時はいつも困ってしまう、正論で断るのはイイのだが、後味が悪い。
「・・・」俺はどう答えようかと迷っていた。
「半分でイイんです、二日何とかなれば大丈夫なんで・・」
「ウン、それで買い取っておくよ、必ず買いに来てよ」
「助かります、もう一つお願いがあるんですが・・」
「何ですか?」
「勤務表を会社にファックスしたいんですが・・送ってもらえませんか?」
A4用紙を受け取り送信したんだ。
でも、約束通り自転車を買いに来たし、その後もチョコチョコ来るようになった。
「ここの店って、暑いすよね」とビッショリ汗を服に浸みこませている。