リサイクル親父の日記

第327話 もう戻れねべぇ、どうしようもないな・・・

2011/07/20

去年暮れと今年初めの2回くらいしか来ていないのだが、印象に残っていた。
70代と思しき夫婦である。
店内をそれぞれが探索してるが、後でレジに来て、数点を思い切り良く決めるという買い方だ。

夫は福島県訛りがあったが、奥さんは標準語に近い。
品物の良さや感想を言ってくれていたので、俺も記憶に残っているのだ。
それに気風がイイのだった、同時に運ぶのも積むのも自らやるというタイプで俺は好感を持っていた。

昨日久しぶり、半年ぶりで来た。
ある意味でのチョッとした顔見知りの仲になっていたからか、大震災でのお互いの確認をしあった。
「わたしたち・・・6回も引越ししてて・・もう疲れてしまったし・・」

「福島の何処でしたっけ?」それは聞き難いけど、それを知らないと話ができない。
「原発から5km圏内だ、煙突が見える場所さ・・・なんのかんもない、一生戻れねべって思ってる」
「今は何処に避難したんですか?」

「うん、二本松でアパート住まいだ、知合いもいないし、やることもないし、身体が鈍るよ」
奥さんがしみじみと語る。
「わたしらの部落に600人くらい居たの、津波なんて思ってもいなかったから・・いっぱい死んでしまって・・
わたしもあっちに避難したり、又、引っ越したり・・・本当に疲れちゃってさ・・みんな流されてしまったし・・」

話しながら彼女の目に涙が浮かんでいる。
様々な知人や友人の死を悲しむのと、震災以降のあまりにも大きな人生の悲惨さを思い起こすのだろう。
「ここで買った凧、海に戻っちまったよ、今頃、泳いでっぺ」と夫が話す。

錦絵の凧を買ったのが、この夫婦だったと俺は思い出した。
「あれ気に入ってたのに・・家具も流されたし、それに家にも行けないしさ、地震と津波で壊れて、そのまんまだべ」
聞くだけで切なくなるし、慰めの言葉も出ない。

「リサイクルで買うのが楽しみだったのに、全部、ぜ~ぶ流されたのよ、最近やっと外に出かけるようになって・・」
「うん、偶には仙台にと思って来てみたんだべ、ここやってて良かったよ」
二人に店のことを思い出してもらえて俺は嬉しかった。

帰り際に俺は二人にプレゼントを渡した。
「あの凧とは違うが、この武者絵の額をプレゼントしますから、お互い頑張りましょう」
「ありがと・・これを見て、ここを忘れないようにするよ」