2011/08/29
痩せ形で中背、俊の頃は70代半場に見える。
白髪で七三に分けた髪形が印象的であり、服装は上等な品をさりげなく着こなしている。
骨董コーナーを静かに見て回っている。
レジカウンター前の10m四方くらいのコーナーは、お客さんの様子が手に取る様に分かる。
お客さんが賑わう訳も無い俺の店では、1人で静かに自分の時間を費やせる環境だ。
美術館でも博物館でもないけれど、じっくり品々を見極めるには都合がイイ。
俺はこんな時には、ついついお客さんに声をかけてしまう。
しかし、このお爺さんには何か威厳を感じて、珍しく声かけを控えていた。
声をかけることが失礼になるのだろうと感じてしまったのだ。
何度も眺めて手に取っていた品をレジに持って来た。
清算した後にお爺さんが聞く、「あの皿はどれくらいの時代ですか?」とボソッと言った。
「どれですか?」オーム返しに俺は聞いた。
「奥のガラスケースにある・・・値段が・・・」と染付の大皿を指した。
俺はレジからケースに向かい、カギを開けて、それ取り出した。
裏表を確かめてから「これは江戸末期でしょう、値段は多少は考えますが」と申し出た。
お爺さんは顔色一つ変えなかった。
「いやいや、気に入ればね・・値段は問題じゃない・・・う~ん、イイ絵柄だね」
その言葉を聞いて急に恥ずかしくなってしまった。
仕入れて7~8年が経つ品である。
骨董品は寝かせて何ぼの世界でもあり、売り急いだり押し売りは禁物なのだ。
押せばお客さんは引いてしまうことが多い。
それに勧めた時に断られると、ちょっとした寂しさと自分の卑しさを感じてしまう。
お客さんが値引きを要求した場合の交渉とは違う。
好きな女にふられた心境に近いかも知れない。
「良くご覧ください、唐草模様が白抜きで珍しい物ですよ」と付け足した。
「おっ、そうだね・・確かに珍しい・・」
お爺さんは買わずに帰ったが、俺は非礼を心で詫びていた。