2011/11/20
仮称であるが、彼女はXXちゃんと呼ぼう。
数年前からのお客さんであり、常連と呼ぶには遠いが、しかし、年に数回は来ている。
震災後は全く顔を出さなかった。
XXちゃんは浜沿いに暮らしいて、震災で家は流出したが家族は無事だったと彼女の友人から聞いていた。
現在は仮設住宅で元気に生活しているとも聞いていた。
被災して大変だったろうと時々心配もしてた。
顔を見たいとか会いたいとかは思っていないけど、懐かしさの様な郷愁的な感じは湧いていた。
彼女の友人は震災後も数回来ていたので、相変わらずのXXちゃんの様子に安堵していたのだ。
入口からドンドン、ドッカドッカ急ぎ足で歩いてきた彼女を見た時、俺は満面の笑みを浮かべた。
「大変だったね、でも元気そうで・・」久しぶりの挨拶を言う。
「何にも無くなったのよ、みな流された!」
「家族は無事だったんだろう? それだけでも・・」と言いかけると、
「でも、何も無くなったんだよ、ここで買った物も・・・全部、この店は被害が無いじゃない」
「そんなことは無いよ、やっと回復できたんだよ、商品がいっぱい壊れたし、俺も大変だったよ」
「ふ~~ん、でもちゃんとしてるよ」
そんな挨拶の後、彼女はノッシノッシ、ドッカドッカと雌クマの如くに店内を歩く。
ボサボサの髪を揺らして、肌にぴったりしたタイツ状の上下で上着がピンクのキルティングを前開きしてる。
2~3段腹が丸見えであり、異様な感じは以前と変わらなかった。
店内の家具売り場から大声で叫んできた。
「これイイなぁ~~5万円か、よし2万円で買うわよ!」
次に、「この大皿もイイな、だってさ流されてしまったし、2万円か、これは5千円だな」
今度はこけしを見つけて、「いっぱいあったのにさ・・無くなったし、1本くらいは欲しいな」
更に、「これはさ、漬物を出す時に合うか? 煮物でもイイな、これも買うか」
そんな賑やかな時間が過ぎて、しんみりとしたXXちゃん。
「仮設じゃ置く場所ないし・・こけしと瀬戸物鉢はもらうわ、まけてよ、何ぼにしてくれる?」
そんな風にXXちゃんは極め付き状態で帰った。