2011/11/22
数年前に買取に行った人からの電話である。
「仙台市泉の野村ですが、ほら、前にさ・・買取に来てもらったのよ・・又、来てくれる?」
俺の記憶力は良くない、数年前に行った買取先を覚えてはいないから、必死に記憶を辿っていた。
「・・おたくじゃなかったかしら?・・別なリサイクルだったかな?・・・テレビに出たのと同じガラスコップが・・
鑑定団に同じ物が、ウチにもあったのさ・・・それで見てほしくってさ・・全く同じだよ・・」
話声を聞いていて少しだけ記憶が蘇ってくる。
「新築した家の・・古い家の方を片付けの時に呼んでもらった方ですか?火鉢とか買わせてもらった」
「そうだよ、思い出した?」
「掛軸や古い焼き物は売ってもらえませんでしたよね、今回はガラスコップだけですか?」
一品ごとに査定を求められた。
値段が安いと思うと売らない、自分の思い込みの激しい人だった。
小売販売価格とか鑑定団の値段を基準にしていたので、彼女の要求では買える訳は無かった。
状況を思い出しつつ俺は答えていた。
「ガラスコップだけでは・・そちらまで1時間以上かかるし、他の物も売ってもらえるなら・・・」
「でも、兎に角さ・・テレビに出てたしさ・・掛軸?あぁ~売ってもイイけど」
俺の査定金額だけを知りたくて呼んでいる節もあったが、ダメ元で出張することにした。
古い家は跡かたも無くなっていたが、そこここに古材でベンチやテーブルが設置されてた。
「古家の梁を利用したのよ、お父さんが日曜大工で造ったわ」
座敷に通されて、そのテレビに出てたというガラスコップを前にした。
「死んだお父さんの代から我が家にあったのよ、古いでしょ?」
ガラス小鉢はライトブルーに上縁に少し乳白色があった、外面は細い筋状カットが満遍なく施されていた。
「すっごく高かったのよ、テレビでは、どう?」
しかし薩摩切子や江戸切子の古いガラスであれば高値だろうが、雑器としてのガラス小鉢は掃いて捨てる程ある。
「ところで掛軸を見せて下さい・・・随分少なくなってますね、もっと沢山あったんでは・・」
「・・」と口を閉じてから、「誰かが持って行ったのかな?」と意味不明のことを言った。
俺は期待が削がれてしまったが、掛軸を展開して検品した。
その後、彼女は次から次に皿や置物をテーブルに持って来て、例の如くに一品ごとに査定を求めてきた。
「うん、随分分かったわ、やっぱりテレビだけじゃ分かんないし・・」
もう1時間以上も説明してて、いつになったら買取できるのかしびれが切れていた。
「今日はどれを売ってくれるんですか?」
そう言えばウランガラスっていうのがあったな・・・彼女は「売らんガラス」かしら?