リサイクル親父の日記

第569話 後で考えると安すぎたから、返してくれ

2012/07/15

「・・青葉区中央のXXだけど、分かる?・・一昨日さ、買取に来てもらったけど・・・掛け軸やオモチャ、
あれなぁ、よく考えらた、売らないよ、だってよぉ、どう考えたって安すぎるよ、おれが査定するとね・・
2万5千円にはなるんだよ!・・・あれじゃ話にならないよ・・・・」

電話の向こうから中年男の声がボソボソ聞こえる。
「はぁ~??あの時、査定して、了解したんでしょ?そして売り渡したんじゃないですか、お金も支払った筈ですが・・・」俺は領収書も受け取ったし、と分かり切ってることを説明しなければならない。

「・・あん時はなり行きで売ったけど、昨日も考えてみたら、やっぱり売らないことにするよ、だからさ、返してよ」
「ウ~ン、そう言われてもね・・物は売場に出してるし、売れた物もあるかも知れないし、今更、一昨日のことを」
「何言ってんだよ、売らないっての!」強弁というか正常な感じはしない。

そのマンションに行った時に俺は少し異様な気がした。
部屋で猫を飼っていたが、決して綺麗に管理してるとは言い難い状況。
窓際に細々と品物が並んでいるが、一見して期待が大外れ、いや、電話の内容と似ても似つかない品品。

「それはね柿右衛門、三越で買ったんだよ、あれは水晶玉」と威張って説明してる。
二つとも本物ではなく、違う無名作家の小さな花入れと中国製ガラス玉なのだが、何度説明しても納得しないのだった。
ガラス玉は地震で床に落ちたのか数カ所にキズもある。

次に自慢した掛軸はブツブツと汚れが目立っている・・・そんな状態の中から俺は選別せざるを得なかった。
もし店に持ち込まれたのだったら、俺は買取しなかったろう。
しかし出張買取に来てた、だから無駄足は嫌だし、空振りも嫌だ。

男が満足するかどうかは別問題であり、損せずに少しは儲けが出る査定を出した。
「これら全部でX千円です、宜しければ買い取ります、こっちはいりません」
ギリギリ販売の可能性のある物だけを買い取って、残りは手をつけなかった。

マンションには駐車場が無いので、歩いて10分の有料に止めて、風呂敷とコンテナを荷物入れに持参する。
コンテナを両手に提げて、風呂敷包みを小脇に挟んで、歩き難かったが駐車場まで戻ってきた。
数回押し問答しても埒が明かないし、ある種の異常さを再確認せざるを得ない。

「・・兎に角、返してよ、売ってないんだから」
これ以上説明しても、自分が売り渡したことを否定するのだからどうしようもない。
「・・えぇ、分かりました、それじゃキャンセルしましょうか、品物は揃えておきますから取りに来て下さい」

「なに!?そっちで持って来いよ、持って行ったんだろう?」
俺は怒りで爆発しそうになるけど、「どうして・・キャンセルはあなたの希望です、あなたが取りに来るべきですよ」
俺が行き来するというのは理不尽だし、死んでも持って行くものかと思った。