リサイクル親父の日記

第591話 お婆さんは丁寧に、丁寧に・・・

2012/08/06

「・・解体するんで、引越し先のマンションは狭いから・・いろいろこの際だから処分することに・・
わたし齢だし、娘も着ないっていうし、ゴミにするのは淋しいから、何方かに着てもらえればって・・」
銭金じゃなくて廃棄するのは忍びないから、誰かに役に立って欲しいと考える。

リサイクルの原点がここに凝縮してると考えるんだ。
自分にとっては役目を終えたが、まだ使えるものを誰かに使ってもらう喜びを感じる。
経理処理的には原価償却済みなのでも寿命はまだまだあるからね。

「明治生まれのお婆ちゃんとお爺ちゃんの着物、わたしとお父さんの、もう着ないし、お父さんも亡くなってるし・・」
古い和ダンスを前にお婆さんは40歳代の娘さんを前にして俺に話してる。
「えぇ~要る物は持って行って下さいね、要らない物だけで結構ですから」俺は念を押すのを忘れない。

和ダンス最上段の引き出しから畳紙(たとうがみ)に包まれた着物を取り出す。
紐をほどいて中身を確認すると、「これはお婆ちゃんのだわ、背が小さいから、そうね150cmくらいかしら・・」
「今の若い子には無理だよ」と娘さんが感想を言う。

「そうね、そうよね」と呟きながら畳紙を縛って俺の方に差し出す。
そして1枚ずつ丁寧に点検しながら、それは惜別の儀式のようでもある。
どれにもお婆さんの思いでは詰まってて、一言ずつ最後の言葉をかけているのだ。

「これは大島風なのよ、普段着にしてたの・・・大島は特別な時だけ・・お父さんも背が小さかったし・・」
古い着物は人気が無い訳ではなくて、柄が古風で面白いものがあるので意外に売れ易い。
ただし実用よりも生地を再利用する方がニーズとしては遥かに高い。

着物だけではない、帯も帯紐など全てを確認しながら呟いて、そして俺に渡してくる。
普通の俺が作業すれば、抜きで何点かをチェックしてからガバッと取り出してしまう。
仕分けもパッパッと一瞬に行うだろう。

タンス一棹分は5~10分もあれば仕分けてしまう。
お婆さんを急かす気はない、彼女が満足納得するように見守るだけ。
次の予定が無い訳でもないが、だからとてそれはそれで対処すれはイイ。

1時間以上2時間まではかからなかったが、お婆さんの仕分けを待っていた。
俺の祖母も母も確かにそんな仕草で仕分けをしたし、するんだ。
要らないからどうでもいいや的に乱暴な行状を目にするより、時間がかかっても丁寧に扱う姿こそが礼節がある。

リサイクルという仕事は、ある種の惜別だから、人によってその儀式を大事にしてあげないとならない。
葬儀屋さんではないが、最後のお送りを手伝わせてもらっていると考えてもイイかな。