2014/08/27
しわがれた声だった。
「・・あのさ、陶器や掛軸・・いっぱいあるのよ、売りたいんだけど・・・」
俺は「物次第ですね、古いんですか、いつ行ったらイイんですか?」と聞いた。
「実は直ぐにでも・・・金が足りなくて、それで売りたいんだよ」と相当焦ってる感じがした。
店から4号バイパスを北上して4~50分の古い住宅街、片側1車線、歩道に乗り上げて駐車した。
門扉を開けて右に折れて階段を7~8段上り玄関だった。
敷地が狭いから駐車場を1階に造って、一部2階造りにしたんだ。
電気照明は点けてなくて、窓からの光だけだし、あいにくの曇り空なので家の中は薄暗い。
「・・去年さ5ヶ月間入院してたのさ、退院したら女房が居なくなっちゃってさ・・・家を出てって・・」
俺は彼が何を話してるのか理解できなかった。
「そんでもって・・・いろいろあった財産も名義を書き換えられたし・・・だから、今、この家で独り暮らしを・・」
???彼の状況はどうであれ、買取品がどんな物かが最重要だと思って、その説明を無視して聞き流した。
しかし検品すると、どれもこれも全部が価値が無かった。
「掛軸も・・壺も・・ウチでは買取できませんし・・・店で売れないので査定が出ませんが・・・」
「そ、そっか・・やっぱりな・・・人間国宝があるが、買うか?」
何とも傲慢な物言いだと思ったが、「人間国宝なら買ってもイイですよ、見せて下さい」
押入れの数ある段ボール箱の中を探しまくって、5~6箱目にやっと見つけたらしく。
「お~~これよ、これ」
箱から取り出したのは陶器の香炉、九谷と読める、作家名はあるが残念ながら俺は知らない。
しおりを読むと昭和初期から戦前、戦後くらいの作家で、石川県の有名作家ということだ。
木箱にふせんが貼られてて、いろいろ文字があって、値段も二百万円って読めるのだ。
「バブルの頃に儲けてたから、掛軸も焼き物も何でも買ったんだよ、随分騙されもしたけどよ」
家は塀がレンガ、外壁にはタイルが貼られてるから、当時はかなり高額だったことをうかがわせてる。
すると、この香炉もまぁこれくらいはしたかもしれない、と勝手に想像してしまった。
「安くて構わないが、あんまり、あんまり安いと売れないよ」
「そうですよね、幾らだったら譲ってもらえますか?」
「・・・そうさな・・・10分の一じゃ可哀想過ぎるだろ・・・5分の一ってとこだな」
「そうですか・・・10分の一だったら持ち合わせてるのですが・・・」
急いで店に帰って、ネット検索したら、作家はいるが人間国宝になってないのだ。
同じ香炉もオークションに出品されてるが、ほんの1~2万円しかしてない。
俺は彼が誤解してるんじゃ気の毒だと思って電話したさ・・・
「人間国宝じゃなかったですよ・・・」
「何を言ってんだよ、イチャモンつけやがって、ふざけんじゃねぇ!」
あ~ぁ、又しても彼の夢を砕いたらしい。