2015/07/03
恰幅のイイ年配男性、どうやら最近俺の店にくるようになった。
というのは、前回来店時に初めて会話したが、俺はその時が初めてだったのだが、
「・・この間も寄らしてもらったけどさ、あれは外、庭に置いても大丈夫かね?」
「狛犬の置物ですね、材質が鉄ですよ、雨も降るし錆び易いですよ、できれは家の中、せめて玄関の庇の下とか・・・」
彼はうんうんと聞いてたが、「狛犬だよな、一つで置いてもイイのか?」
「床の間や玄関の下駄箱の上に置いてる方もいますしね、一種の魔除けでしょうし・・・」
でも彼は即決しなかった。
「ウチのやつも骨董が大好きでね、今度連れて来るよ、その時に残ってれば買うよ」
夫婦揃って同好の趣味とはイケてるなぁ、と内心俺は思った、でも買いに来ることを期待はしない。
口が軽い人に限ってすっぽかすし、シャミ(三味線)を引くってのが常套手段だと知ってるんだ。
それに常連さんでもないし、多分2度目の来店だし、俺としては初対面だった。
彼はBMW新車で帰った。
数日後、電話がって、聞くと「狛犬が残ってるか?」と言う。
「あ・ぁ・・あの時の・・・ありますよ、売約にしておきますよ」
「イヤ、イイんだ・・・午後に行ってみるよ・・その時あれば・・・」、欲しいとハッキリしてもらえばイイのだが、素直に応じない。
ちょっと気どり屋さんなんだと思ったし、逆に「売約済」とわざと張り紙をした。
それから数時間も過ぎたんだろうか、すっかりそれを忘れてた。
彼は俺の方にち近づくと「・・売約にしててくれたんだね、それじゃ・・・買わなきゃ、悪いし・・・」
俺に言うというよりは、自分に対しての言い訳をしてる。
「ところで・・・奥さんはいらしてないんですか?」先日の言葉を思い出して聞いた。
「車・・中にいるよ」と彼は窓外に眼をやった。
それからちょっと経って、入口に奥さんが来た、足腰が弱ってるらしく、ゆっくりよぼよぼと歩んでた。
俺は彼女に近づいて声をかけた。
「どうも・・・こんにちわ・・・奥さんも骨董が好きなそうで・・・」
すると彼女は眼をキッと吊り上げて声を高く発した。
「なっ、なんですって!!!まったく、困ってるんだから!!」
俺が叱られた感じがした、不条理で理不尽な彼の方便じゃないか!