リサイクル親父の日記

第84話 どうしてこんなに想像通りなのよ

2015/08/18

・・・
「ま・・こんなところだよ、それで幾らになる? 値段次第だよ、売るかどうかは・・・」
隣に居た年配の娘さんも同調してる、「・・高かったからねぇ、安かったら・・もったいないし」

だいたいは難航不調で出張したことが無駄になるし、その確認のために出向いたようなものだ。
造園業の看板が立った、仙台からは1時間も南下した農道沿いの鬱蒼とした木々の1軒家。
堀に架かった狭いコンクリート橋を過ぎて納屋を回ると庭があり、その奥に母屋がある。

納屋は一部休憩室、そして道具置き場などを兼ねてる。
俺が着くと、母屋からのっそりと御爺さんが現れて、休憩室でいろいろ話を聞き出してきた。
「おたくは 何処だい・・そりゃ遠かったね・・骨董、分かるの? リサイクルだろ?」

どうもこの年代の職人は口が悪いというか、見下した物言いをする連中も多い。
俺は庭を見た時から、色んな置物や飾り物を見て思ってた。
簡単に判定すれば、ろくな物が無い、どれもこれもが偽物やお土産品なのだ。

そして物言いと横柄な態度、これは電話での想像を裏切らないだろう。
雑談を早々に終えて、早く本題に入りたかったから、「そろそろ、お願いします」
「お~~そうだったなぁ・・あっち、家の中にあるよ・・」大袈裟すぎるもったいつけた言い方だった。 

玄関に木彫り熊、根っこオブジェ数点、「これ、どうだ?アイヌへ行って買ったんダ、30年前だな、高かったぞ」
俺は答えず、座敷へ上がって行って覗く、すると座卓の上と床の間に木箱入り花瓶などが目に入った。
「これは・・有名な人だよ、こっちはみんなが欲しがって、随分くれてやったかな・・」

俺は一瞥して、見るべき物、買える物がほんの少ししかないと判断できた。
でも、お爺さんが言う説明を聞いてたし、それを娘さんもフォローするのだった。
2人が説明するほど、価値の低い物も含めて高い、高いというから俺は心が離れる。

新品で買えばそれなりに高い物でも、何十年も経てば汚れたり傷ついたりするし、物によっては無価値になる。
リサイクル品や骨董品であっても保管状態や退色などによって、それに現在相場によって価格は大きく変動してる。
それに土産品や工芸品などはやはり低減が激しいし、人気はなくなっているものだ。

だから、値段次第だって威張られても、そもそも買いたい物が少ないのだ。
俺は、「ハイ、分かりました・・・買えるのは5点だけです、他は買えません・・・5点でX円ですね」
「なぬっ!たったそれだけかよ、他は要らないって・・・これ1つだけでもX万円したんだぞ」

御爺さんの顔色が激変して、呂律がおかしくなってきた。
「・・だから・・・売らないで・・お持ちになってた方が・・・買った値段と比べては・・・」
何度も同じ場面に遭遇してるから、損切りできない人は売るなんてことは不可能なのだ。

「・・買ってから何十年も楽しんだんでしょうから・・・ま、無理なされないで・・・」
「おい、それじゃ・・・ぜ、全部まとめたら・・何ぼじゃ?」
「いえ、買える分しか買えませんから・・・他の物は要らないので・・・」

「値段が着かない、ゼロってことか!」凄くエキサイトしてしまってた。
「売れなくて在庫もあるから買えないんです・・・ゼロとかじゃなくて・・・」
「ゼロってことはねえだろ・・・」

俺は不毛の論議を避けないといけない、お爺さんのエキサイトから逃げたいと思った。
「・・・これで・・失礼したいと思います・・」と腰を上げた。
お爺さんは疲労した顔と声で「・・帰るってさ・・」と娘さんに叫んでた。